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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1294号 判決

控訴人

岡田音人

控訴人

城西建物株式会社

右代表者

芝田由千代

右両名訴訟代理人

市川渡

被控訴人

越後克雄

右訴訟代理人

鳥谷部武

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人らは「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、以下に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。なお、この判決において「本件土地」、「旧二七番四の土地」、「二七番五の土地」とは、それぞれ原判決における「本件土地」、「旧二七番四の土地」、「二七番五の土地」をいうものとする。

(控訴人らの主張)

一、かりに原審認定のように被控訴人が昭和四五年六月二〇日頃本件土地を時効取得したとしても、控訴人岡田は昭和三九年九月三日控訴会社から本件土地を含む旧二七番四の土地を買い受け、その登記(昭和四七年四月二一日)未了の間に前記時効が完成したことになるから、控訴人岡田は時効完成時の本件土地の所有者とはいえず、被控訴人と控訴人岡田との各所有権取得は二重譲渡と同視すべき関係にあり、したがつて被控訴人は右時効取得をもつて、その登記なくしては控訴人岡田に対抗できないと解すべきである。

二、かりに右主張が容れられないとしても、被控訴人が原審認定のような経過で本件土地を控訴会社から買い受けてこれを占有して来たとすれば、その占有の始め善意にして過失がなかつたことは明白であるから、民法第一六二条第二項により、その占有開始後一〇年を経過した昭和三五年六月二一日(注。控訴人提出昭和四九年九月一七日付準備書面中「二月二一日」とあるのは「六月二一日」の誤記と認める。)、取得時効が完成したことになるところ、控訴人岡田はその後に控訴会社から本件土地を買い受け所有権移転登記を経由したものであるから、被控訴人は右時効取得をもつて、その登記なくしては控訴人岡田に対抗できない。

(被控訴人の主張)

控訴人らの前記一、二の主張はいずれも争う。その二については、被控訴人は二〇年の取得時効を援用し、一〇年の取得時効は援用していないのであつて、一〇年の取得時効を援用するか、二〇年の取得時効を援用するかは援用権者たる被控訴人の任意に属するから、本件において被控訴人の援用しない一〇年の取得時効が完成したことを前提とする控訴人らの主張は理由がない。

(証拠関係)〈略〉

理由

一当裁判所も被控訴人の本訴請求をいずれも正当と認めるものであるが、その理由は、以下に訂正、補充するほか、原判決理由と同一であるから、これを引用する。

(一)  〈省略〉

(二)  控訴会社代表者本人尋問(原審および当審)において、同本人は、原判示の板塀は、原判決添付別紙第二図の(イ)(ホ)(ニ)(ハ)を結ぶ部分に元来あつたもので、控訴会社が被控訴人に二七番五の土地を売つた頃に、右図面の(イ)(ロ)(ハ)を結ぶ部分にあつた板塀を(イ)(ホ)(ニ)(ハ)の部分に移築したものではなく、また控訴会社が右二七番五の土地を分筆する際右板塀より南側である(イ)(ロ)(ハ)の塀を境界としたのは、北側にあつた建物の軒先が板塀を越えて出ていたためで、(イ)(ホ)(ニ)(ハ)(ロ)(イ)を結ぶ土地(本件土地)は被控訴人に対する売買の対象ではなかつた旨供述する。この供述は当裁判所の採用しないところであるけれども、右板塀と二七番五の土地の分筆との関係がかりに右供述のとおりであつたとしても、原審認定のように二七番五の土地の坪数不足が当事者間に問題化した事実の認められる以上、その交渉によつて、元来板塀があつたという(イ)(ホ)(ニ)(ハ)の部分にまで売買の対象たる土地の範囲が拡張された旨の認定を覆えすことは困難である。

なお右本人尋問(当審)において、右本人は、二七番五の土地の坪数不足問題は防火用水付近の三角形の土地2.52坪を売買の対象に加えることにより解決されたもので、本件土地は関係がない旨供述するが、この供述は、被控訴本人尋問の結果(当審)と対比し、また右2.52坪の土地を含めた上でさらに本件土地を加えることによりはじめて売買の対象たる土地の坪数が実測一〇七坪を越えることになることは原審認定のとおりであるから、右供述は到底措置できない。

(三)  当審における控訴人らの主張一について。控訴人岡田は昭和三七年(控訴人らは当審において三九年と主張するが、三七年が正当であることは、原審認定のとおりである。)九月三日本件土地を含む旧二七番四の土地を控訴会社から買い受けその所有権を取得したのであるから、その登記が未了であつても、控訴人岡田は、被控訴人が本件土地を時効取得した昭和四五年六月二〇日頃において本件土地の所有者であり(この場合、被控訴人が、未登記である控訴人岡田を本件土地の所有者と認めてこれを主張することは少しも差支えない。)、被控訴人の時効取得との関係においては、物権変動の当事者であるから、控訴人岡田は被控訴人の登記けん欠を主張できないのである。控訴人らの主張は、独自の見解であつて援用できない。

(四)  同二について。民法第一四五条の趣旨からすれば、不動産を時効取得した者は、一〇年の時効と二〇年の時効とのいずれをも援用し得る場合においては、そのいずれを援用するかの自由を有するものと解すべく、その結果いずれか一方の時効が援用された場合(右両者はその要件を異にするから、おのずからその基礎となる事実の主張も異なる理である。)、裁判所は他方の時効を認定することはできないといわなければならない。本件において、被控訴人が二〇年の取得時効を主張し、一〇年の取得時効を援用していない(したがつて善意無過失の事実も主張していない)ことは明らかであり、また控訴人らは援用権者ではないのであるから、被控訴人の善意無過失を主張して一〇年の取得時効の適用を求めることもできないわけである。したがつて、昭和三五年六月二一日に被控訴人のため本件土地につき十年の取得時効が完成したことを前提とする控訴人らの主張は、すでにこの点において失当である。

二以上のとおり、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は正当であつて、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(川島一郎 小掘勇 奈良次郎)

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